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研究代表者 挨拶

川西 哲也

早稲田大学理工学術院 
基幹理工学部電子物理システム学科

現代社会において、情報通信ネットワークが不可欠なインフラとして位置付けられていることは言うまでもありません。特にコロナ禍中は、テレワークやオンライン授業が急速に社会に浸透・進化し、経済活動の維持に寄与しました。通信容量の確保に加えて、あらゆる状況下で途絶なくサービスを提供することの重要性は高まるばかりです。

現代のネットワークでは、仮想化技術の進展により、エンドユーザがハードウェアを意識することなくサービスを利用できる時代になっており、通信量も増加傾向です。さらなる大容量通信の実現と信頼性向上には、ユーザとネットワークを繋ぐ物理的な伝送媒体の革新が不可欠です。これには、移動体通信ネットワークで用いられてきたマイクロ波帯の電波に加えて、より高い周波数帯であるミリ波帯・テラヘルツ帯と呼ばれる電磁波を積極的に活用していく必要があります。

現在、第五世代移動体通信システム(5G)の実用化が進んでいますが、次世代として期待される6Gでは、大容量データを伝送できるテラヘルツ帯の利用技術が重要技術として注目されています。しかしながら、テラヘルツ波は大気中における減衰が大きく、長距離通信には不向きです(伝送距離は1km以下)。そこで、光通信技術との融合が必要となります。また、波長の短いテラヘルツ波は、わずかな機械振動の影響を受ける可能性があり、その最適化には電磁気学だけでなく、機械工学、環境工学などを含めた複数の物理特性の相互作用を研究するマルチフィジックス的な視点が必要です。

さらに、このような新規の物理伝送媒体を社会実装していくためには、新たな物理原理に基づく高速デバイス開発、実環境での電波伝搬解析、実社会でのユースケース研究に加えて、新たな周波数帯を世界各国で使うための国際標準化活動が必要です。このように、6Gの実現には複数の専門分野の多岐にわたる知識を深掘りしつつ、これらを統合する専門家のチームワークが重要です。

私たちの研究プロジェクト「マルチフィジックスICTシステムデザイン」は、電子工学、通信工学に加えて、機械工学や気象学などの幅広い分野の知識を統合し、次世代情報通信ネットワークを支える様々な伝送メディアの能力の飛躍的な向上とシステム設計原理の確立を目指しています。

マルチフィジックス解析でICTシステムをデザインすることで、先進国だけでなく、途上国を含む地球上の様々な環境に対応したネットワークが実現できます。テラヘルツ波を重要な新たな伝送メディアと位置づけ、日本、ドイツ、フランスの研究者が、光ネットワークとの融合や耐環境性に優れた通信に係る研究に取り組んでいます。日本チームは、伝搬解析、アンテナ計測、耐環境光通信、電磁気・機械マルチフィジックス解析を、ドイツ・フランスチームは、電波伝搬・システム統合シミュレーション、ユースケース検討、テラヘルツデバイス開発などを担当します。私たちはワークショップや共同実験を通じて、知識の共有を促進し、国際的な競争力の高いチームを構築します。

私たちの目標は、地球上に設置するネットワークの性能を学術的・理論的に示し、実際のネットワークの性能を最大化するための設計指針を明確にすることです。また、国際共同研究を通じて、学生や若手研究者が個々の専門知識を深め、社会実装までのプロジェクトの進め方や国際連携のスキルを習得することも目指しています。

2023年4月、早稲田大学に国際的な環境で基礎研究から国際標準化までを重層的に体験できる場として「6G光・無線融合ネットワークラボラトリー」を設立しました。この仕組みを活用しつつ、高い国際競争力を有するチームによって、社会生活発展に貢献する研究プラットフォームを築いていきます。 本プロジェクトへのご理解とご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。